眼科手術:硝子体手術(PPVorPVR)


○硝子体手術
硝子体手術とは硝子体と呼ばれる組織を除去し、網膜硝子体の病気を治す手術。
通常局所麻酔で行われ、手術時間は平均1時間から2時間以上に及ぶこともあります。
硝子体は水晶体と網膜の間にあり、コラーゲン繊維と水でできた眼球の大半を占めている透明な組織です。この硝子体が網膜を引っ張ったり、濁ったりすることで網膜剥離や、硝子体混濁といった病気を起こします。硝子体手術は白目の部分から3カ所の小さな穴を開けて,非常に細い器具を眼内に挿入し、ガスを注入し網膜の位置を正す(ガスタンポナーデ)の治療を行います。
重症な網膜剥離で、網膜裂孔が大きな場合などには、眼内にシリコンオイルを注入する場合も稀にあります。
シリコンオイルの場合は、特殊ガスを注入した場合とは違い、手術後の体位を考えなくてもよく、白内障の心配もほとんどありませんが、自然には吸収されませんので、約3〜6ヶ月をめどにシリコンオイルを抜き取る手術が必要になります。
シリコンオイルが入っている間はかなり遠視の状態になっています。
シリコンオイルを抜き取ると、また元に戻りますので、メガネの再調整はシリコンオイルを抜去するまで待った方がよいでしょう。



○看護
・裂孔があるのなら術前後ともに網膜裂孔が下にくるような姿勢を保つ
・基本的にはうつ伏せ寝や座位、2週間は下向きor横向き生活
・体位でなく、眼球の向きが大切。
・点眼時のみ上を向くのは問題ない。
・ガスでは約2週間〜6週間で吸収される。
・眼内にガスが入っている場合には、うつぶせや横向きなど特殊な体位が必要になります。
・仰向けの体位で休むと、空気やガスが水晶体に長時間触れるため白内障を招きます。ガス白内障という。また白内障術後であるとレンズがずれたり、眼圧上昇をきたす。
・高所や飛行機は眼内の気体が消失してから
・お風呂の湯が目に入るのはよくない
・プールや水泳は1ヶ月ひかえる
・眼内に気体やオイルが入っている間は見えにくいが、その後も徐々に改善する。ガスが残っているとガスのつぶがみえるらしい。ガスがみえる間は車は控える。
・夜間入眠時はカッペを使用する
入院中点眼練習


○観察点
・眼痛
・羞明
・充血
・乾燥


○副作用/合併症
・眼内充鎮物質使用による眼圧行進によって生じる眼痛
・眼脂
・眼内炎(創部より細菌の侵入)
・駆逐性出血(術中高血圧などが原因)
・網膜剥離(と、なった場合はリオペ)
・術後合併症高眼圧:出血、炎症などで眼圧が上がることがありますが、ほとんどが短期間の点眼・内服治療で回復する。
・硝子体出血:手術創や網膜裂孔から少量の出血が起こることがありますが、ほとんどの場合早期に吸収されます。
・増殖硝子体網膜症の再発:初回手術で80%は復位しますが、増殖性変化がさらに増えてきた場合に再発することがあります。硝子体手術を追加して対応します。
・飛蚊症:手術は目の中の硝子体をカッターで小さく切って吸引します。術後にわずかに残り飛蚊症の原因になることはありますが、異常ではありません。また、手術による炎症に起因する飛蚊症はガスがなくなって1週間ほどで吸収されて消失します。
・黄斑浮腫:炎症、循環障害に起因する黄斑浮腫が起こることがあります。薬物治療をします。
・角膜混濁:手術操作によって多少なりとも角膜には障害が及びます。しかし、もともと角膜が弱かったり、角膜に障害を与える病気がある場合や手術困難な場合に術後に角膜機能が落ち、角膜が混濁することがあります。重症の場合は角膜移植手術が必要となります。
・感染症:まれな事ですが、手術後に眼内で細菌が繁殖することがあります(4000~5000例に1例)。手術直後に起こる場合と、しばらく経ってから起こる場合があります。抗生剤や硝子体手術で治療します。感染が高度の場合は視力障害が残ります。手術後は傷の周りの清潔を保つことが大事です。


○適応疾患
1)裂孔原性網膜剥離


症状:飛蚊症や光視症は初期段階でレーザー治療でも可能。網膜剥離が進むと、はがれた網膜の部位に相当する視野が、カーテンがかかったように見えなくなってきます。
網膜の中心にある黄斑部に剥離が及ぶと、急激に視力が落ちてきます。ここまで進行すると早急な入院による手術が必要。
網膜剥離は発見が遅れればもしくは放置すれば、失明にいたってしまう病気のため怖れられがちですが、早期発見、早期治療で失明を防ぐことができます。


2)硝子体出血
硝子体はもともと透明ですが、この中に出血して血液が溜まると赤血球は光を通さないので、視力が低下します。出血の量が少ないときは飛蚊症。出血の量が多いと、全体に見えなくなる。原因は、網膜裂孔・糖尿病網膜症・網膜静脈閉塞症・加齢黄斑変性症などの網膜の病気がほとんどですが、稀にくも膜下出血後に脳内の血液が眼内に逆流して起こる硝子体出血(テルソン症候群)や、眼球の悪性腫瘍が原因の硝子体出血もあります。
硝子体出血は自然と吸収されることが多いので、原因となった病気の治療を急ぐ必要がない場合は、1か月程度そのまま様子を見ることがあります。
 時間がたっても出血が吸収されずに視力低下が続く場合は手術適応となる。


症状:飛蚊症、霧視


3)糖尿病網膜症
持続する高血糖により網膜血管が傷んでしまい、眼の中にさまざまな病変が生じて、最終的に重篤な視力障害にいたる。新生血管から出血(硝子体出血)したり、増殖膜が網膜を引っ張って網膜剥離(牽引性網膜剥離)になったりして、重篤な視力障害に至ります。
また、どの段階においても、網膜の中で物を見るのに一番重要な黄斑部がむくむ(黄斑浮腫)と視力が低下します。


段階
①単純網膜症(血液成分がにじみ出る)
②増殖前網膜症(血管塞栓)、
③増殖網膜症(新生血管・増殖膜が発生し硝子体にまで病変が及ぶ)


4)黄斑円孔
眼底の網膜の中心部を黄斑と呼び、ものを見る真ん中にあたります。黄斑円孔は、黄斑の網膜に丸い穴(円孔)があく病気です。
硝子体は歳とともに、しだいに水になって縮んでいき、ある時期になると網膜から剥がれます。剥がれる時に、人によって硝子体が薄皮のように網膜上に残ることがあります。この薄皮が網膜を引っ張り、円孔をつくります


5)黄斑上膜
黄斑の網膜の表面に膜が張る病気です。原因は、円孔と同様に、硝子体の残った薄膜がセロファン状の膜になることにより起こります。この膜は網膜の表面にくっつくだけでなく、縮んで網膜にしわを作ります。


黄斑円孔・黄斑上膜では初期にはものを見る中心部に歪みや霞みが起こります。進行すると、歪みだけでなく視野の真ん中が見えなくなります。放置した場合、視力は0.1まで低下します。しかし、まわりは見えているため、完全な失明はまれです。


黄斑前線維症(黄斑前膜)の場合は、通常は眼内へはガスは注入しませんが、手術中に黄斑部に円孔が開いてしまうことが稀にありますので、その際は、眼内へ特殊なガスを注入することが必要になります。