呼吸器外科 メモ

VATS「バッツ」(video assisted thoracic surgery):胸腔鏡下手術

肺葉切除:原発性肺がんのもっとも標準的手術
肺区域切除:2cm以下の小型末梢肺がん 手術手技は肺葉切除より複雑
肺部分切除:転移性肺腫瘍や良性病変、リンパ節郭清しないため患者負担少ない
肺全摘術:肺門部腫瘍 右肺のほうが容量が大きいため右肺全摘のほうが体への負担大
ブラ切除術:気胸


原発性肺がんの場合、肺葉切除肺区域切除時に同側の肺門および縦隔リンパ節の郭清をおこなうのが一般的。



微小肺癌-小型肺癌
 CTですりガラス様陰影、GGO GGNと表現


喫煙歴のない正常な肺なら右肺全摘まで可能


肺動脈は大動脈、肺静脈と比べて脆弱で容易に出血するため、術後出血が怖い


また肺の手術は原則健側片肺換気
術中患側の上肢を挙上させているため、術後は肩が痛くなりがち


インセンティブスパイロメトリー
持続的に吸気を行い最大吸気能力を増加させることで肺胞の開存を行う呼吸訓練器具
術後肺合併症予防の観点からは「容量型」が良い。流速型もある。




胸腔ドレーン
 刺入部より浸出液漏れがある場合、胸腔と外気の交通を意味する。感染リスクがあるため主治医に報告必要


開窓術後はドレナージのため胸腔内のガーゼ交換を1日1回する。
医師が滅菌操作でおこなうため介助必要。
疼痛をともなうため鎮痛剤投与したり、生食にぬらしたガーゼを使用する。
胸腔内の大血管が露出している場合は出血リスクがあるため注意
出血時は圧迫止血が重要


創部や胸腔ドレーン抜去部を保護しているドレッシング剤は72時間以内に除去する。
長期貼付による感染リスクあり。


術後合併症
➀無気肺
貯留した痰が気道をふさぐことえ肺胞が虚脱し換気ができなくなった状態。術中の気管内挿管の刺激により分泌物が増え、麻酔や疼痛により呼吸や咳嗽が抑制されることで痰の喀出が困難となる。貯留した痰の閉塞が改善されない場合、それより末梢の空気は約12時間で吸収され、その後肺炎に移行する。
自己喀出が困難な場合は気管支鏡による吸痰を行う。また気道内分泌物の粘性低下や気管支拡張目的でネブライザーを行う


②肺水腫
肺の間質に水分が貯留している状態。術後の輸液過剰や腎機能悪化等で心臓に負荷がかかると生じる場合と、術後無気肺・肺炎となりサイントカイン放出され肺胞・間質に炎症が起こり急性呼吸速迫症候群(ARDS)、急性肺障害(ALI)を発症することで出現する。片肺全摘術ではリスクが高い。リンパ郭清をおこなっている場合も肺からのリンパの流出もわるくなっており肺がむくみやすい。→そのため消化器手術よりdry sideで管理する。
治療は酸素投与、人工呼吸器、利尿薬など。
静脈還流量を減少させる座位やファーラー位にする。排痰のための体位ドレナージは禁忌。


③不整脈
肺切除後の肺血管床減少に伴う肺高血圧、術後リフィリングに伴う右房負荷、低酸素血症などに伴い出現する。肺切除後に出現する不整脈の多くは上室性不整脈(Af)で肺切除の約20%、とくに片肺全摘術では40%出現。(術後3日目)48時間以上続くと血栓が生じて脳梗塞などの原因となる。
抗不整脈薬の投与、IN/OUTバランス管理


④気管支断端瘻、肺瘻、膿胸
エアリークや皮下気腫が持続する場合は気管支断端の閉鎖不全の可能性がある。気管支断端瘻に伴い胸膜感染が必発し膿胸へ移行する。
治療:胸腔ドレナージ洗浄。再手術で瘻孔閉鎖。炎症が高度の場合は開窓術により炎症が収まるのを待つ。
多くは胸腔ドレーン抜去後に生じやすい合併症といえる。
この状態で健側肺が肺炎になると重症化するため、健側を上する。


有瘻性膿胸とは気管支と膿胸腔が交通した状態であり,膿胸腔は常に細菌感染を反復することになる。 膿胸腔の清浄化を図ることが困難であることから,各種の治療を行っても無瘻性膿胸に比べて明らかに難治性である。 有瘻性膿胸では,膿性痰,錆色痰などの排出があり,胸部X線像では膿気胸を合併するため通常鏡面像を呈する。


⑤乳び胸
胸管と連絡するリンパ管の走行は複雑。縦隔肺門リンパ節郭清時にリンパ管を傷つけることにより生じる。
治療:低脂肪食、それでも排液が減らない場合は絶食とし胸膜癒着療法をする。
 それでもだめなら再手術(結紮術、クリッピング術)


胸膜癒着療法
損傷部位の癒着をはかるためにピシバニール(OK-432)やミノマイシンで行う。
1)胸腔ドレーンで胸水を抜き、肺を再膨張させて臓側胸膜と壁側胸膜を密着させる2
2)キシロカインを投与、その後に上記薬剤を投与
3)ドレーンをクランプ(2時間ほど)し体位変換をして胸膜全体に薬剤がいきわたるようにする。
4)必要に応じてドレーンをつりあげる
5)体位変換を15分毎におこなうこともある
※癒着術後は炎症とともに発熱が生じる。


⑥後出血
手術操作によるもの。出血していてもドレーンが閉塞し、胸腔内にたまってしまうことがあるため注意。
ドレーンから1時間あたり100ml以上の血性排液を3時間以上認める場合は再開胸となる


⑦反回神経麻痺
肺癌の標準的根治手術は現在も肺葉切除+肺門縦隔リンパ節郭清である.縦隔リンパ節郭清に伴う合併症の一つである反回神経麻痺
治療;ビタミン剤、末梢血管拡張薬、嚥下訓練、ステロイド
看護;誤嚥性肺炎予防


胸腔ドレーン
肺尖部:エアリークのインフォメーションドレーン
肺底部:液体排出目的
※通常は1本のとろっかーを切除部位におく


呼吸性移動は肺切除部分が大きいほど大きい。(いうところの死腔)
ドレーン陰圧は肺が虚脱せず、皮下気腫が生じないギリギリ低い値が望ましい。
吸引圧が高いと肺瘻や再膨張性肺水腫の可能性がある。


持続的エアリークを認めた際、ドレナージシステムがゆるんで空気がはいりこんでいる可能性がある。見分け方は体に一番近いところを一時的にクランプすること。これでリークがとまれは接続部からの空気漏れといえる。(1分未満、医師の指示のもとおこなう)


○術前検査
1秒量 FEV1.0…大きく息をすった状態から一気に吐き出すことのできる空気の量のうち最初の一秒間に吐き出された空気の量。肺活量と気道狭窄を反映している。


1秒率 %FEV1.0…性別、年齢、身長からわりだされる予測値に対する実際の1秒量の比率
80%以上で正常。70%以下で閉塞性換気障害


努力肺活量 FCV…大きく息をすった状態から一気に吐き出すことのできる空気の量


肺葉切除を予定している場合は1秒量が1.5L,、片肺全摘であれば1秒量が2.0L以上必要。この基準を満たせば術後の1秒量はおおよそ1L以上となり、日常生活に支障がでない。


肺拡散機能検査(DLco)…肺胞領域の障害の程度を示す。肺胞壁が厚くなるIPや、肺胞構造が破壊されるCOPDで拡散能が低下する。


■縦隔腫瘍
縦隔胸膜、脊椎、胸骨で境界される部位であり、胸腺・甲状腺・リンパ組織・神経などから発生する腫瘍を縦隔腫瘍という。
症状
➀腫瘍の気道圧迫による呼吸器症状…腫瘍部位を下側にすると改善する
②上大静脈症候群…腫瘍が血管へ浸潤・圧迫することで上大静脈が閉塞し、上半身血管の怒張・顔面の浮腫、脳圧亢進症状を認める
③腫瘍の骨性胸郭外進展…腫瘍が胸壁外で露出すると、前胸部が膨隆する
④肋骨浸潤、肋間神経刺激による神経痛
⑤癌浸潤し胸管破綻→乳糜ろう
⑥心嚢液貯留によるタンポナーデ
⑦食道狭窄による嚥下困難
⑧脊髄圧迫症状…後縦隔の場合、上下肢のしびれ・麻痺が出現する。
⑨末梢神経症状…反回神経麻痺による嗄声、横隔神経麻痺による横隔膜挙上と労作時呼吸困難、交感神経幹に由来するホルネル症状(眼裂狭小、瞳孔縮小、眼球陥没)


また胸腺腫の約20%に重力筋無力症が合併する。
眼:眼瞼下垂、複視
球麻痺:構音障害、嚥下困難、誤嚥
上肢脱力、下肢脱力、呼吸筋力低下


胸腺種には約5%程度 赤芽球ろうによる貧血が合併する。