周手術期関連:術後合併症 呼吸器系

➀挿管操作による合併症
(歯の破折・脱落防止、咽頭痛、嗄声、反回神経麻痺、喉頭浮腫)


・気管にチューブを入れる操作により、歯や義歯が損傷することがある。
術前から口腔外科医にて診察。必要あればマウスピースを作成し予防する。


・気管にチューブを入れると声帯に傷がつき、術後に咽頭痛やかすれ声になることがあります。多くの患者さんは術後2,3日で症状が軽くなり、1週間程度でほとんど症状がなくなる。


・まれにこの傷がもとで声帯肉芽腫ができることや、声帯を動かす反回神経が麻痺することがある。このような時は声を出しにくい、むせるといった症状があらわれ、回復までに時間がかかる。


・抜管後の喉頭浮腫
気管挿管チューブを抜いた後、吸気性呼吸困難を呈するようになった場合には疑
う必要がある。浮腫の発生時期には個人差があり、抜管直後から生じる人もいれば、数時間後に生じる人もいる。
経過観察、もしくはステロイド、カテコラミンの吸入療法。必要に応じ再挿管となる。


観察項目:嗄声、飲水テスト実施によるムセこみ、ストライダー(吸気時上気道狭窄音)



②舌根沈下
術後は筋弛緩剤や麻酔の影響で再度舌根沈下しやすく、気道閉塞を起こす危険性がある。
そのため術後は枕を使用せず、spo2モニターを装着する必要がある。
いびき様呼吸などがサインとなりうる。


舌根沈下時の対応:側臥位、仰臥位での頭部後屈・顎先挙上法


③術後無気肺
肺組織が虚脱し肺胞の空気が減少した状態である。
麻酔による呼吸抑制や、術中の長時間同一の体位、術後創部痛による浅呼吸によって、肺胞内分泌物が貯留し、閉塞してしまうため生じる。無気肺が生じると換気できる肺胞が制限され、低酸素となる。無気肺の状態が続くと肺胞内の分泌物によって術後肺炎となりうる。


リスクファクター:高齢者、肥満者、喫煙者、肺疾患既往等。
→術前から禁煙を指導する必要がある。


診断:胸部X線写真やCTなどの画像所見で診断される。


治療:痰の喀出を促す、吸入薬、鎮痛剤の使用(創部痛の緩和)、離床


④術後肺炎
無気肺が原因であったり、術後嘔吐から誤嚥性肺炎となる場合がある。また反回神経麻痺によって誤嚥性肺炎が生じるリスクもある。


診断:X線検査、CT
治療:抗菌薬、酸素療法



⑤縦隔気腫・気胸
人工呼吸による間歇的陽圧呼吸により気道(気管・気管支・肺胞など)が破けて、縦隔気
腫・気胸などを生じる危険性がある。



⑥肺血栓塞栓症(PE)
肺動脈に血栓が詰まり肺の血流が低下し呼吸困難、チアノーゼそして最悪の場合死にいたる。深部静脈血栓(DVT)が飛んで肺動脈に詰まるのが原因。術後初回歩行時に血栓が飛びやすい。
肺動脈が詰まることにより右心室から肺動脈への血液の流れがストップし右心室、右房への負担がひどく右心不全状態にもなる。
ほとんど症状なくゆっくり進行するものから、突然死にいたるものまで多彩。
1年間で1000人に1人が発症すると言われている。


予防:術前からの弾性ストッキングの着用、DVT⁺の場合は静脈フィルターの留置
術後ベッド上での下肢運動、早期離床


リスクファクター:脱水、肥満、高齢抗凝固療法、
診断:CT
治療:肺血管内治療(血栓溶解、血栓除去)、抗凝固療法