周手術期関連:術後合併症 その他

➀術後せん妄
手術の後に生じるせん妄を術後せん妄と言う。認知症違い可逆性かつ一過性のものである。


診断基準
A.意識状態がやや悪くなっており、集中することができない。
B.記憶や見当識、言語に障害が認められる。
C.数時間から数日の間に出現し、1日のうちでも症状に変動が認められる。
D.病歴や身体所見、臨床症状から身体疾患の可能性が低い。
※A~Dを全て満たす場合、せん妄と判断される。


既往としてのリスク因子
過去のせん妄の既往、高齢、脳器質的疾患、認知症、薬物依存、鬱病、統合失調症、甲状腺機能異常、感染症(特に中枢に移行するもの)


身体的なリスク因子
外的ストレス因子:手術侵襲、麻酔による感覚の変化、安静臥床、見慣れない光景
内的ストレス因子:手術への不安、睡眠障害
麻酔管理要因:低酸素血症、術中の微小梗塞、脱水、痛み、電解質異常、低血糖、貧血
薬物要因:オピオイド、ベンゾジアゼピン系、プロポフォール、抗コリン薬、ドパミン、ステロイド、H2ブロッカー、筋弛緩薬


対策
・ドレーンルート類の自己抜去防止
・転倒転落予防
・見やすい時計やカレンダーの設置、普段使っている眼鏡や補聴器を使い、規則正しい生活


薬物療法
内服ができない時
・ハロペリドール(セレネース注):5mgを緩徐に静注または点滴投与、あるいは筋注。
1日2回まで。QT延長を生じる可能性があるため、リスクのある患者には慎重投与。


液体なら内服できる場合
・リスペリドン(リスパダール内用液):初回は1回1mgを1日2回。徐々に増量し2~6mgに漸増。12mlが上限。


内服可能だが興奮を伴う場合
・クエチアピン(セロクエル):第一選択。初回1回25mg、1日2、3回。徐々に増量し1日投与量150~600mgを2、3回に分けて内服。上限1日量750mg。糖尿病患者に禁忌。
・リスペリドン(リスパダール錠):初回は1回1mgを1日2回。徐々に増量し2~6mgに漸増。12mlが上限。


内服可能だが興奮を伴なわない場合
・トラゾドン(レスリン):初回1日75~100mg。上限1日200mg。一部のHIV阻害薬(サキナビル)と併用でQT延長を生じるため禁忌。
・ミアンセリン(テトラミド):初回1日30mg。最大1日60mg。1日1回夕食後か就寝前に内服。MAO阻害薬との併用で昏睡を生じる可能性があるため併用禁忌。


その他の薬剤 ※術後せん妄に対する保険適用なし
・ラメルテオン(ロゼレム):1回8mgを眠前に投与。メラトニン受容体作動薬。
ただの眠剤であり、その中でも副作用が最も弱い。
・スボレキサント(ベルソムラ):1回20mgを眠前に投与。オレキシン受容体拮抗薬。ラメルテオンと機序は異なるものの原理が似ている眠剤。副作用は少ないとされている。
・抑肝散:1日7.5gを2~3回に分けて食前または食間に内服する。漢方系の鎮静薬。


コメント
・術直後のせん妄ならセレネースを投与。1日2回まで パーキソン,アドレナリ禁忌。
・内服できるようになればリスペリドンを定期的に内服する。アドレナリン禁忌
・オピオイド、BDZ系、抗コリン薬、ドパミン、ステロイド、H2ブロッカー、等はせん妄の予兆となるため除外する。
・夜間せん妄による不眠があればロゼセム/ベルソムラを定期投与。
 ※即効性はないものの、ふらつき等の副作用がなく使いやすい。



②術後シバリング
体温の回復を主な目的とした,無意識に生じる身震いのことをいいます。手術患者さんでは,主に全身麻酔からの覚醒後に起こる。
普通の身震いとは違い,比較的長時間続くことが多いため,体内の酸素消費量の著明な増加,眼圧や脳圧の上昇,創部痛の増強など不利益な反応を引き起こす。


セットポイントとは,そのときどきで,体温調節中枢が「正常」と設定する目標体温のこと。セットポイントより実際の体温が低い場合に,シバリングが発生すると考えられています。


全身麻酔中は麻酔薬によりセットポイントが下がっているため,患者さん自身が体温を一定に保とうとするシバリングなどの自己調節機能は強く抑制されますが,麻酔覚醒後にはセットポイントが復元し,患者さん 自身の体温自己調節機能が再び働き始めます。



その結果,低体温の場合は,体温を患者さん自身が上げようとして,シバリングが発生することがあるのです。


全身麻酔中は麻酔薬の影響で体温のセットポイントが下がり,シバリング閾値も低下します。麻酔覚醒時にセットポイントが正常化した時点で低体温があると,シバリングとして症状が表出します。


体温調節性シバリング
中枢温が低下すると,体温調節性の末梢血管収縮を伴うシバリングが起こります。
これを体温調節性シバリングといい,麻酔後の震えの80%以上はこのシバリングです


非体温調節性シバリング
体温調整に関係のないシバリングのこと。原因はわかっていませんが,痛みや,残存する揮発性吸入麻酔薬により脊髄反射が促進されることが推測されています


体温が正常でもシバリングが発生するのはなぜ?
手術侵襲により,体内では炎症性サイトカインが増加。
その結果,体温調節中枢のセットポイントが上昇し,通常の体温でも,体温が低下していると誤認してしまい,手術終了後にシバリングを生じてしまうことがある。


対応
基本的には保温。痛みが原因であれば鎮痛剤を用いる。


薬物療法
上昇してしまったセットポイントを正常に近づけるために行う。
シバリングの治療に試みられている薬剤としては,
オピオイド(メペリジン,モルヒネ,フェンタニル,ナルブフィン,ペンタゾシン)
中枢性鎮痛薬(トラマドール)
ナトリウムチャネルブロッカー(リドカイン),
α2-アゴニスト(クロニジン)
メチルフェニデート,ドキサプラム,ケタンセリン,フィゾスチグミン,デキサメタゾン,マグネシウムなど


薬剤でとくに有効なものとしては
メペリジン(ペチジン)
α2アゴニストであるクロニジン 作用機序は不明
ドキサプラムは末梢性呼吸刺激薬 機序は不明な
マグネシウム製剤に含まれるMg2+ 詳細な機序は不明